この度2010年8月1日付けで、大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 生体情報科学講座(心血管代謝学研究室)の教授に就任しました。
大阪大学医学部を1985年に卒業後、第二内科大学院(垂井清一郎教授、松澤佑次講師)に入学し、脂質代謝の研究を始めました。学位論文は、血清中性脂肪が後天的に著明に上昇した患者さんの病態が自己抗体による中性脂肪分解酵素の阻害であることを解明したもので、N Engl J Med誌に発表しました。その後、循環器内科としての臨床や米国ベイラー医科大学留学を経て、最近10年間は脂肪細胞が分泌するアディポネクチンという血漿タンパクの研究を行い、この分子がメタボリックシンドロームの病態で中心的な役割をしていることを明らかにしてきました。
生活習慣の欧米化に伴って増加している心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患は、脂質異常・糖尿病・高血圧・肥満・メタボリックシンドロームなどが原因となっています。私の研究室では、脂質代謝異常と肥満による液性因子異常を研究の2本の幹としたいと考えています。Auwerx教授の研究室に6年間留学し、転写因子研究で成果をあげた山本浩靖准教授が2012年3月からチームに加わり、6名の大学院生と分子生物学・血管細胞生物学的研究を行っています。
研究は面白い。私自身の大学院時代には酵素の精製で何度も失活を経験しましたが、その度に新しい発見があり、仮説通りに自己抗体による酵素の阻害活性が証明出来た時は感動しました。アディポネクチンは仮説と逆に肥満で血中濃度が低下する分子でしたが、動脈硬化防御作用を持つことを発見し、防御因子が低下することで動脈硬化が進展するという新しい発想が得られました。
ステントを用いて動脈硬化で細くなった血管を速やかに広げて治療することが出来ます。ところが寿命を延ばすには十分ではありません。何故でしょう?それはステントで治療しなかった別の血管が詰まって命を落としてしまうからです。全ての血管を治療するには代謝的なアプローチが必要です。これが心血管代謝学研究室という名前をつけた理由です。保健学科の特質を活かした予防医学に直結する、動脈硬化の新しい診断法・治療法の開発を夢に研究を行っていきたいと考えています。
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻生体情報科学講座 心血管代謝学研究室
教授 木原 進士